大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)504号 判決 1960年11月25日
原告 信用組合大阪商銀
右代表者、代表理事 大林健良
右訴訟代理人弁護士 中村健太郎
被告 長谷川房子
被告 羽田伊太郎
右訴訟代理人弁護士 原田永信
被告 岩本小竜
主文
被告等は、原告に対し各自金五一二、三〇六円およびこれに対する昭和三二年四月五日から右支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
この判決は原告が被告等に対し各金一五〇、〇〇〇円の担保を供するときはそれぞれ仮に執行できる。
事実
原告は主文第一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
(一)原告は中小企業協同組合法に基いて設立せられた信用組合であるが、昭和三〇年七月五日、被告長谷川房子との間に、将来継続的に手形貸付、手形割引等の与信取引を行う旨の契約を締結し、被告羽田伊太郎、同岩本小竜の両名は前同日右被告長谷川房子の右与信取引契約上の債務につき連帯保証をした。≪以下事実省略≫
理由
一被告長谷川房子、同岩本小竜に対する請求について
(一)原告が中小企業協同組合法に基いて設立された信用組合であり、昭和三〇年七月五日被告長谷川房子と原告主張のような与信取引契約を締結し、同日、被告岩本小竜が被告長谷川房子の右与信取引契約に基く債務につき連帯保証をしたことは、右当事者間に争いがない。
(二)次に、証人長谷川一郎の証言(第一回)ならびに同証言により真正に成立したと認められる甲第二号証および証人稲富文夫、同藤井保、同加門美夫の各証言を綜合すれば、原告は前記被告長谷川房子に対する与信取引契約に基き、同人に対し、手形貸付、手形割引の方法で、前後四回にわたり、金一、二〇〇、〇〇〇円を融資し、昭和三二年二月五日現在でその債務残額が金七二〇、〇〇〇円となつたので、その支払のために、被告長谷川房子より原告主張のような金額七二〇、〇〇〇円の約束手形一通の振出交付を受けたこと、原告は右手形の所持人として右手形をその満期日である昭和三二年四月五日支払のため支払場所に呈示したがその支払を拒絶されたこと、その後被告長谷川房子より前記手形金七二〇、〇〇〇円に対し金二〇七、六九四円の内入弁済がなされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(三)そうすると被告長谷川房子は主債務者として、被告岩本小竜は連帯保証人として、原告に対し、右手形金残額五一二、三〇六円およびこれに対する右手形の満期日の昭和三二年四月五日から右支払済まで、手形法所定年六分の割合による利息金の連帯支払義務あること明らかである。
一、被告羽田伊太郎に対する請求について
(一)被告羽田伊太郎は、原告と被告長谷川房子の与信取引契約の成立と被告羽田の連帯保証の事実を争うのでこの点を考察する。被告長谷川房子作成部分についてはその成立につき当事者間に争いなく、被告羽田伊太郎作成部分については、証人長谷川一郎(第一、二回)ならびに被告本人羽田伊太郎の供述(第一、二回)により真正に成立したものと認められる甲第一号証に、証人長谷川一郎(第一、二回)同藤井保、同町田佐雄、同加門美夫の各証言を綜合すると、原告は昭和三〇年七月五日被告長谷川房子との間に将来継続的に手形貸付、手形割引等により融資をなすべき旨の与信取引契約を締結し、前同日、被告羽田伊太郎は、右被告長谷川房子が前記与信取引契約に基き原告に対して負担すべき債務につき、連帯保証をしたことが認められる。この点につき被告羽田伊太郎(第一、二回尋問)は、被告長谷川房子の夫長谷川一郎の依頼によつて、同人が原告と当座取引を開始するにつき保証したにすぎず、原告との取引から生ずる債務について保証したことはない旨の供述をしている。しかしながら前掲甲第一号証に、証人長谷川一郎の証言(第一、二回)ならびに被告本人羽田伊太郎の供述の一部(ただし後記信用しない部分を除く)を綜合すれば被告長谷川房子は昭和三〇年七月五日頃、原告との間に前記与信取引を結ぶに当り、夫の長谷川一郎と共にかねてより親交のあつた被告羽田伊太郎に対し「銀行で金を借りるから保証してほしい」旨を依頼し、持参していた原告組合備付の約定書(甲第一号証)の保証人欄に右被告の署名捺印を得たこと、(署名だけは前記長谷川一郎が代行)そして右約定書(印刷文字によるもの)はその記載内容からみて、原告組合との間の手形割引、手形貸付、当座勘定借越などによる現在の債務ならびに将来発生すべき債務に関し人的ならびに物的担保の供与、担保物の換価処分方法等を定めるとともに右債務についての連帯保証人の責任を定めた約定書であることが認められるから、前示被告羽田伊太郎本人の供述は信用できない。右契約締結に使用された約定書(甲第一号証)が印刷文書であることによつて、もとより前認定を左右するいわれなく、他にこれを覆えすに足る証拠はない。
(二)次に、原告の前記被告長谷川房子に対する与信取引契約に基き、同被告が原告に対し原告主張のような約束手形金債務を負担していることは既に前段一(二)で認定したとおりである。
(三)ところで、被告羽田は、本件与信取引約定書(甲第一号証)第四条の規定の趣旨ならびに本件手形以外の被告長谷川房子振出の手形に手形保証をしていることを根拠に、被告が本件与信取引契約に基く債務の保証責任を負担するためには、更に主債務者の具体的取引につき改めて保証をすることが必要であると主張する。前掲甲第一号証(前記約定書)の記載によるとその第四条に「拙者ガ貴組合ニ対シ現在負担シ又ハ将来負担スルコトアルベキ無担保債務ニ付テハ貴組合ニ於テ必要ト認メラルルトキハ御請求次第直チニ相当担保ヲ差入レ又ハ保証人ヲ相立テ申スベク候」という規定があるが、右規定の文言ならびに証人藤井保、同町田佐雄の各証言を綜合すると、同規定は無担保債権の回収の安全をはかるために、原告において物的担保の差入れや保証人の追加を要求できる趣旨を定めたことが明らかで被告の前記主張を裏付ける資料とは解せられない。また被告羽田が原告の求めによつて被告長谷川房子振出の本件手形以外の分につき手形保証をしたことについては、被告羽田本人の供述(第二回)をおいて他にこれを認めるに足る証拠はなく、右供述は、これと全く相反する同被告本人の第一回供述のあるところからみて直ちに信用できないところであるが、かりに被告主張のような事実があつたとしても先に認定した本件保証契約の趣旨からみて、右事実は未だ被告の前記主張を肯認するに足らないというべきである。
更に前記甲第一号証ならびに証人藤井保の証言によると、本件の保証契約には責任限度額や保証期間の定めが存しないが、このような継続的金融取引の保証はその特質上、保証の範囲に合理的な限界を画するために、後記のように一定の要件のもとに解約権が認められることは格別、主債務者が負担する個々の債務につき保証人の個別的保証をまたなければ、保証責任が発生しないと解すべき根拠はないから、被告の前記主張は採用できない。
(四)次に被告羽田伊太郎の本件保証契約解約の抗弁について判断する。
原告は被告羽田主張の抗弁(二)(三)は被告の故意又は重大な過失により時機に遅れて提出された防禦方法であると主張するのでまずこの点につき判断するに、被告羽田の前記抗弁は、本件について証拠調を完了した後の昭和三五年九月一五日の最終口頭弁論期日に主張されたものであるから右主張は少くとも被告の重大な過失により時機に遅れて提出されたものというべきであるが、右防禦方法の提出により別段訴訟の完結を遅延せしむべきものとも認められないから右防禦方法の提出はこれを認容すべきである。
そこで(1)まづ、被告は、本件のような期限の定めのない継続的金融取引から発生する将来の債務の保証においては、取引慣行ならびに信義則にてらし大体一ヶ年を基準として取引約定書の書替えなどの措置をとらないかぎり、金融機関は保証人の責任を問えないと主張するが、被告主張のような一般の取引慣行を認むべき資料はないし、また本件のような保証契約の存続期間又はその他の終了原因が定められていない継続的保証において、保証人の責任の存続につき過重な負担から免れさせるためには、後記保証人の解約告知権を認めれば足り、被告主張のような責任軽減の原則を設定すべき根拠は発見できないから、右主張は理由がない。
(2)次に被告の本件連帯保証契約解約の主張について判断するに、本件のようないわゆる継続的保証において保証責任の限度額および保証期限の定めのない場合は、保証人において、取引慣行ならびに信義則にてらし相当と認められる期間が経過した後は解約の申入ができると解するのが相当である。しかしながら被告羽田が昭和三二年二月五日、被告長谷川房子振出の本件約束手形に原告より手形保証を求められた際、これを拒絶すると共に、本件保証の解約を申入れたとの被告主張を立証するに足る証拠はない。ただ被告本人羽田伊太郎(第二回尋問)は被告長谷川房子が本件約束手形を振出す以前に、同人振出の別手形につき原告より手形保証を求められ、これを拒絶したことがある旨供述しているが、右供述はこれと相反する同人の第一回供述ならびに証人長谷川一郎の証言(第二回)と比べて信用できない。更に被告羽田は昭和三二年六月末に本件保証契約の解約を申入れたと主張するが、かりにこの事実があつたとしてもそれは主債務者である被告長谷川房子が原告に対し、原告主張の本件約束手形債務を負担するに至つた後のことに属するから右債務につき被告羽田は本件保証の責を免れ得ないことはいうまでもない。したがつて右主張もまた理由がない。
そうすると、被告羽田は本件連帯保証債務の履行として原告に対し本件約束手形金残額五一二、三〇六円およびこれに対する右手形満期日である昭和三二年四月五日より右支払済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金の支払義務あること明かである。
三、よつて原告の被告等に対する本訴請求はすべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤平伍)